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No.31話:労務に関するリスクマネジメントの基本とは。
2021.01.27
従業員との労務トラブルはあってはならないことですが、「重大な過失」や「故意」により会社のルールを違反する者は「秩序維持」の観点からも見逃すわけには行きません。しかしながら、会社が「正当な理由である」と判断して処分を行っても、従業員が「不当だ」と主張して裁判などの労務紛争に発展し、会社が「敗訴」することがよくあります。何故なのでしょうか。その理由は大きく分けて2つあります。
まず、一つ目は「正当な理由である」という会社側の認識そのものが間違っているというものです。
例えば、「我社では入社1年目は仕事を覚える研修期間。残業や休日出勤しても残業手当や休日出勤手当を支給しない。その事は本人も承知の上で入社しており誓約書もいただいている。」というケース。残業をした従業員から「残業手当未払い」で訴えられた経営者からの相談でよく言われるのが「本人も残業手当が支払われないことは承知しているし、誓約書もあるから民法上の『契約自由の原則』により法律上、問題はないはず。」というもの。
経営者のお気持ちはわかるのですが、これは100%会社が敗訴します。理由は簡単で、「強行法規」である労働基準法に違反するからです。労働基準法では裁量労働制などでもない限り、従業員が時間外労働をすれば会社は時間外手当を支払う義務があります。民法上の「契約自由の原則」はあくまでも「強行法規に反しない限り」ですから、労働基準法に違反すればアウトです。すなわち、会社の「正当な理由である」という主張がこの時点で崩壊しています。従いまして、人事担当者はもちろん経営者は少なくとも労働基準法はしっかりと理解しておかなければ、労務紛争のリスクに対処できません。
二つ目は、会社側の処分が「正当な理由である」ことを客観的に証明できていないというものです。
例えば「遅刻や無断欠勤を相当日数繰り返し」たために「懲戒解雇」をしたケース。確かに事実であれば常識的に「懲戒」対象になりますが、「遅刻や無断欠勤」の回数を証明する出勤簿がそもそも無かったり、不正確であればその事実を客観的に明示できません。また、「懲戒解雇」を決定しても就業規則に「懲戒規程」が存在しなかったり、あるいは「懲戒解雇」を判断するような無断欠勤の回数が「懲戒規程」に明示されていなければ、規程上の根拠のない「不当」な処分と判断される可能性が高くなります。
最近は「就業規則」、「雇用契約書」、各種の法律上の「労使協定」、そして「出勤簿」「労働者名簿」などの労務管理帳票の整備が労働基準監督署から強く指導されるようになり、対応している企業が多くなりました。(当然といえば当然なのですが。)しかしながら、
これらの資料をただ整備しただけではリスクマネジメントの観点から不十分です。「労務紛争に対応できる条文や文言」、「処分の基準となる服務規律違反の回数」等が必要となる事項が記載されていなければ意味がありません。
「戦闘機はあるがジェット燃料がない。」「機関銃はあるが弾はない。」のと同じで「使えない」資料になるだけということです。
残念ながら依然として、これらの労務管理環境の整備を軽視する経営者が多いです。不届きな行為をする従業員に当然の処分を行って、不本意は結末を迎えないためにも労務管理に関する環境整備に留意するように心がけてください。
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