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No.44話:従業員に「制裁」を加えるときに考えるべきこととは何でしょうか。
2021.04.28
規模の大小に関わらず、会社の就業規則には故意、または過失により「服務規律」に違反した従業員に対して「制裁」を加えるために、「懲戒規程」が整備されています。そして、この「懲戒規程」に基づいて、従業員に「譴責」「減給」「出勤停止」「諭旨退職」「懲戒解雇」といった「制裁」を行います。
さて、この会社の従業員に対する「制裁」(懲戒権)については、過去にその有効性について争われてきました。すなわち「一民間企業が、一個人である従業員に『制裁』を加える権利があるのか」という懲戒権そのものを疑問視する考え方です。しかし、これに対しては「企業の秩序を維持する」ために、企業は従業員に対して懲戒権を有するという考え方が確立されています。
ただし、懲戒権があるからと言って合理的理由がなく行使すると、労働契約法第15条における「権利の濫用」とみなされ無効となります。従って、懲戒権が有効となるためには、同条の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めらえない場合」に該当しないことが必要になります。
そのためには、
まず第1に就業規則に「懲戒規程」が整備されていることが必要になります。
これは労働基準法第89条第1項第9号においても、就業規則において「制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度」を記載することが義務付けられています。従って、懲戒権を行使するにあたっては大前提になります。
第2には、「制裁」処分が「懲戒規程」の基づいたものであることです。
冒頭のような「制裁」項目がある会社において、処分を決定する際に「懲戒規程」にない(例えば冒頭に例示した「制裁項目」にない)「降格」という「制裁」を適用することはできないということです。実はこれをしてしまう会社が多いのです。「制裁」は「規程通り」が原則ということに十分ご注意ください。
第3には、「違反行為」の「重さ」に対する「制裁」処分の「重さ」が妥当であることです。
例えば「譴責」処分程度の行為に対して、「出勤停止」という重い処分が適用されることがこれに当たります。あるいは過去に同様の行為をしている従業員には「譴責」処分としていたのに対して、今回の行為者には「出勤停止」処分とするといったように、「制裁」に一貫性がないことも注意すべきです。
第4には、「情状を酌量する。」ということです。
具体的には、過失などで生じた違反行為に対して、本人の「反省の度合い」や「再発防止への意識」によっては「制裁」処分を軽減するというものです。一方で、本人の故意によるもので悪質性が高い違反行為については、最初の行為であっても厳格な「制裁」処分を選択することもあり得るということです。
第5には、「制裁」処分決定への手続きが「懲戒規程」に基づくものであることです。
「懲戒規程」に、「懲戒委員会の設置、開催」や「本人の弁明の機会」が規定されているにもかかわらず、経営者の「鶴の一声」で処分を決定してしまう場合です。規定通りの手続きを欠くと裁判で争いが生じた場合は会社にとって極めて厳しい判断がされますので、くれぐれもご注意ください。
以上、裁判例をもとに留意すべき事項を述べましたが、一番、気を付けていただきたいのは目の前で「服務規律」違反の事案に遭遇すると、どうしても感情が先に立ってしまうということです。会社経営をゆるがすような重大案件であれば、憤りをおさえがたいことは重々理解できますが、「制裁」処分を決定する際には「冷静さ」が不可欠です。少々、不適切な表現かもしれませんが「盗人に追い銭」にならないように、落ち着いて対応するようにしてください。
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