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No.87話:労務トラブルで会社がそれでも負けてしまう理由とは。

「やっぱり労働者の方が強いよね。」は従業員と賃金不払いなどのトラブルが生じ、経営者にとって不本意な結果となったときにいただく感想です。このような言葉いただくと、前提条件や対応の過程は別として、その結果に対してはコンサルタントの「力不足」の感を禁じ得ません。

しかしながら、雇用関係において「会社より労働者が強い」とは、労務管理の専門家としてこれまでに一度も思ったことはありません。むしろ、圧倒的に会社の方が有利で強いと確信しております。何故なら雇用契約におけるルールを作っているのは会社だからです。

確かに労働基準法で「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべき」としていますが、実際の雇用契約締結においては「このような業務を、この労働時間に行ってください。賃金はこれだけ支給します。」と労働条件を会社から提示され、その内容に労働者が承諾することで成立するという流れがほとんどです。

もちろん、「賃金がその金額では働けません。しかし、この金額にしていただければ入社します。」という労働者からの逆提示もあり得ますが、多くの場合は労働者の希望する労働条件でなければ交渉することなく、雇用契約締結に至らないということになります。すなわち、採用されるということはその会社の決めたルールのとおり働くということを意味していると思います。さらに労働者には採用後の勤務に関する義務を、会社が定めた就業規則に基づいて遵守することが求められており、違反すると雇用契約が解されることもあります。

以上のとおり、会社が雇用契約においてのルールメーカーであり、労働者に比べて圧倒的に有利なのです。であるからこそ不利な立場である労働者の生命・財産が不当に侵害されないように、国が労働基準法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法などを定めて、労働条件の設定に一定の制限を掛けています。あるいは圧倒的に弱い立場の労働者の団結権等を保護するために労働組合法などが制定されています。

それでも、このように雇用関係において圧倒的に強い立場である会社が、負けるはずのない労働者との紛争で完膚なきまでに負けてしまうことがよく見られます。何故でしょうか。あくまでも私見ですが、その理由は次のようなことではないかと思っています。

一つは会社がルールを決めるときに「必ず決めておくべきこと」を決めていなかったということです。例えば「懲戒規程」ですが、これを就業規則に整備せずに従業員を懲戒処分にすること会社の「懲戒権」行使の根拠になりません。

もう一つは会社の規模や社会環境の変化に応じてルールを見直しておかなかったことです。例えば従業員規模が10名のころに作った就業規則の内容で、100人規模になった会社の労務管理をすることです。給与の締め日が20日で25日支払いという体制は10名であれば可能ですが、100人規模では日数が足りず必ず処理に不具合が生じるというものです。

上記以外にも様々なことが原因として挙げられますが、雇用に関するルールメーカーである会社がその役割を疎かにしていることが大きいのではないでしょうか。それにより割を食うのは会社自身だけでなく、本来会社がルールを整備することで保護すべき真面目に仕事に従事している従業員です。

雇用関係において「有利である。」ということは「責任を伴う。」ということです。「労働者の方が強い」と憤慨している場合ではないということをくれぐれも認識していただきたいと思います。

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