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No.92話:「使用者責任」が問われる前に会社が行うべきこととは。
2022.03.30
従業員が業務車両を運転中に誤って通行人(第三者)に接触してケガを負わせた場合、加害者である従業員は当然自身が招いた事故の責任により被害者である通行人への損害賠償を行わなければなりません。それだけではありません、
実は従業員の使用者である会社も民法第715条の「使用者責任」にもとづき、被害者から損害賠償が請求される場合があります。
自動車事故の場合は自動車賠償責任保険(自賠責保険)、もしくは任意の損害賠償保険に加入していますから、その加入している保険より被害者へ保険金が支給されるため使用者である会社が損害を負担することはほとんどなく、「使用者責任」を実感する機会は少ないのではないでしょうか。しかし、万が一、従業員が飲酒運転で事故を起こした場合は任意の損害賠償保険から保険金が給付されることはなく、自賠責保険の範囲内で補償できない場合は「使用者責任」にもとづき会社に損害賠償が求められる事態になる可能性があります。
あるいは会社が認めている自転車を利用した通勤途上で、従業員が通行人に重大なケガを負わせたことにより、損害賠償を求められた場合も注意が必要です。自転車保険に加入しておらず加害者である従業員に賠償能力がない場合に、前述の会社へ「使用者責任」に基づく損害賠償が請求された事案が実は少なくないのです。(近年は自転車購入時に損害賠償保険の加入を義務付ける自治体も増えてきていますが、無保険で自転車を運転している人はまだまだ多いようです。)
そして、会社が一番気をつけるべきことは「職場でのハラスメント」です。ハラスメント防止対策を会社が疎かにしている状態で万が一、ハラスメント被害者である従業員が不幸にして自ら命を絶った場合はどうなるでしょうか。行為者である従業員に対してはもちろんのこと、使用者である会社にも「使用者責任」にもとづき遺族から高額の賠償金を請求される可能性があります。
規模の小さな会社であれば、この賠償金を支払うことで損益に大きな影響が出てしまい、
場合によっては事業継続ができなくなることもあり得ますから、「使用者責任」を安易に考えるべきではありません。
もちろん、リスクを想定した一般の任意保険に加入するといった対策も必要ですが、まずもって事故やハラスメントの防止に向けた会社の対策は不可欠です。
「使用者責任」を規定する民法第715条の但し書には「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」とあります。(「この限りではない。」とは賠償責任を負うことはないということ。)すなわち、
日常において従業員に対して自動車・自転車の安全運転講習やハラスメント防止に向けた研修といった「注意喚起」を充分に実施していれば、「使用者責任」を回避できる可能性は高くなるということです。
「使用者責任」はなかなか実感できないことと思われるかもしれませんが、明日「使用者責任」が問われる事態が発生しないとも限りません。そのときになって右往左往しないためにも、日常から従業員を介在した「リスク」に目を向けて注意喚起を心掛けるようにしてください。
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