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No.100話:「身の丈」以上の賃金は従業員の成長を止める?

「人手不足の状態で困っているところに、先日ある従業員から『退職したい。』という申出を受けた。今、その従業員に退職されると非常に困るので『賃金を上げるので残って欲しい。』とお願いしたところ、何とか翻意してくれた。」と、ある経営者のお話し。私が「賃金はどの程度引き上げたのですか。」と尋ねると、びっくりするような金額の増額でした。職務内容や年齢、そしてその会社の規模を考えると正直、世間相場から随分とかけ離れていたのです。

今回の事例のような、その人の「身の丈」をはるかに超えた賃金は、残念ながらその人にも会社にも悪影響を与えることの方が多いと思います。あり得るケースとしては、まず「会社の足元を見てくる。」というものです。会社からの好条件の提示は従業員に「この会社は人手不足で困っているな。自分が辞めると困るようなのでもう少し要求して、更に好条件を引き出してやろう。」という気持ちにさせてしまうものです。従業員から会社に「この位まで上げろ。」と言わんばかりに要求されて、ゆくゆくは困ってしまうことになりかねません。

もう一つは「会社の賃金体系への悪影響」です。制度的に賃金体系を設定していない会社でも経営者として、勤続年数や年齢、職位、職務内容に応じた賃金額は頭の中でイメージして昇給をしてきていたと思いますし、従業員も「ウチの会社はこの年齢でこの職位にいれば、この程度の賃金が支給される。」と想定していると思います。しかし、特異な対応を特定の人物に一旦適用してしまうと、この体系が崩れてしまうことになります。すなわち特定の人物以外にも体系のつじつま合わせをせざるを得なくなり、せっかく今までうまく機能していた仕組みが機能しなくなりかねません。それは従業員に「あの人を特別扱いしたために、賃金が上がりにくくなった。」「これまでだと、この年齢になればこの程度の賃金がもらえたのに、そうでなくなってしまった。」という不満が噴出しかねなくなります。

そして、もう一つは「特別対応した従業員を結局は潰してしまう。」ということです。図らずも「身の丈以上」の賃金や上位職などへの昇進といった処遇を受けることは、本人にはうれしいことであり、また大きなプレッシャーでもあります。意気に感じて与えられた賃金や処遇に見合う働きをする、すなわち「身の丈」を自分の努力で合わせてくれればよいのですが、現状その賃金や処遇に遠く及ばないような能力しか持ち合わせていなければ、本人には負担となり、かえって成長の妨げになってしまいかねません。下手をすれば最後には「退職」を選択することもあり得ます。(結局は、単に「退職」時期を引き延ばしただけになります。)まさに「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ということです。

厳しい人員体制という背景を考えると「労働条件を譲歩してでも有能な人材の退職を引き留めたい。」という経営者のお気持ちは重々理解できます。しかし、やはり安易な労働条件の譲歩や過剰な労働条件の見直しは、あなたの会社に上記のような弊害を招くだけです。退職希望者の引き留めにはまずもって、会社の現状やその人への思いや期待するものを伝えて「説得」すること、そして退職希望者の退職理由の「聴取」が第一です。退職理由(老親の介護など)について会社の現状の制度で配慮できるのであれ、制度の範囲で対応すればよいと思います。

それでも退職の意志が強ければ、諦める他ありません。強引な引き留めはトラブルの元ですからくれぐれもご注意ください。

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