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No.142話:過去の出来事、裁判例を労務管理に活かすときの留意点とは。

従業員との不本意な紛争は年々複雑になり、そして増加しています。「期待通りに働いてくれない従業員の賃金を下げても問題ないのか。」「職場における上司の厳しい指導がパワハラに該当するのか。」といった、難しい労務問題に良い解決方法が見つからず頭を抱えることもあるのではないでしょうか。

そんなときに参考になるのが、これまでに自社で経験したことがある類似した労務トラブルの事例ではないでしょうか。また、そのような事例が無くても、インターネットで検索すると労務に関する様々な事例や過去の裁判例がいつでも閲覧できますから、「こんな指導方法や対処方法があるのか。」「こういったケースであれば、パワハラには該当しないのか。」と気づきを得ることが出来ます。

しかし、ご注意いただきたいことがあります。自社の過去の事例やインターネットで公開されている事例や判例は確かに解決方法を考えるヒントになるかもしれません。その一方で、それらの情報は自社であれば「他の従業員の事例」であり、インターネットの情報であれば「他社で発生した事例や裁判例」ということであり、あくまでも「参考情報」という取扱いにしかならないということです。

何故ならば今、目の前にある実際の労務管理上のトラブルは、自社の事例やインターネットで公開されている事例・判例と「類似」していても、「判で押したような」全く同じ案件ではないからです。したがって「この案件はネットに掲載されている事例と似ている。だから、この事例と同じように対応すれば問題ない。」と考えて対応しても、同じように解決できるとは限らない可能性があります。あるいは、想定外の事態を招き「泥沼化」するといったことも起こり得ます。

会社も従業員もトラブルに至る環境はそれぞれです。同じ会社であっても経営規模や状況は過去と現在では異なります。従業員についても同一人物であっても、その人の信条や生活実態(結婚をする。老親の介護が必要になる。)などは、過去と同じではないはずです。ましてや、他の企業であればなおさら環境が違いますから、トラブルへの対応の結果は同じではありません。

では、自社の過去の事例やインターネットで公開されている事例や判例を、全く参考にしなくていいということではありません。これらの事例や判例を目で追うだけでなく、「なぜそのようなトラブルに発展したのか。」「解決できた理由や背景は何だったのか。」もしくは「裁判の中で指摘された重要ポイントはどこだったのか。」といったことをよく調べることです。その中にこそ今、目の前に横たわる労務管理上の課題や、トラブルの解決の糸口があるかもしれません。

注意していただきたいことは、実際に直面している問題は他の事例とは違う、新しい個別の問題であるということです。したがって、まずはその問題にしっかりと対処方法を独自に導き出すという姿勢を持ってください。あくまでも過去の事例や他社の事例・判例は参考材料でしかないということをお忘れなく。

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