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No.309話:人事の業務は想像以上に強い心理的負担を伴います。
2026.05.27
あらためて申し上げるまでもありませんが、経営者として従業員に業務を就かせる上で必要なことは、まずもって従業員の立場や状況に深く配慮し、業務の指示をしなければならないということです。
少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化する現代、多くの経営者が「採用がうまくいかない」「従業員が定着しない」と頭を悩ませています。しかし、実際にその最前線で荒波に立ち向かっている人事担当者が抱える、言葉にできないほどの重圧に、どれほどの経営者が目を向けているでしょうか。
経営者が人事担当者に委任している業務は、企業の存続に直結する重要事項ばかりです
が、その中身は想像以上に泥臭く、そして極めて強い心理的負荷を伴うものです。人事の仕事は、華やかな採用活動や華々しい表彰制度の構築だけではありません。むしろ、その裏側にあるのはまさに「泥をかぶる」業務です。
人材難の中での絶対的な人数確保が求められる「採用ノルマのプレッシャー」。成果をより反映した処遇システム(評価制度)の構築・運用に伴う、職場の不満の矢面に立たされる「利害調整の板挟み」。業績不振時のリストラ、ローパフォーマーへの退職勧奨の実施といった「組織の痛みを伴う決断」。ハラスメント事案の調査・対応、労働者との紛争解決など「ハードな労務トラブルの解決」。
これらはすべて、人間の「感情」「生活」「人生」に直接踏み込む業務です。特に退職勧奨やハラスメント対応などは、
どれほど経験を積んだプロフェッショナルであっても、他者の負の感情をダイレクトに受けるため、精神的なエネルギーを著しく消耗します。
経営者の「代わりにやっておいてくれ」という一言は、人事担当者にとっては「誰かが傷つく役割を一身に背負え」と言われているに等しいのです。
人事担当者のメンタルヘルスを守り、その能力を最大限に発揮してもらうために、経営者は業務の依頼方法を根本から見直す必要があります。まずもって「あの従業員を辞めさせてくれ」といった、結果のみを求める丸投げの依頼は絶対に避けるべきです。
経営者自身が「最終決定の責任は自分が負う」という覚悟を明確に示し、人事担当者には「そのための客観的なプロセス(面談や法的手続き)の整備と実行を助けてほしい」という形で依頼します。
「最後は社長が後ろに控えている」という安心感こそが、最大の盾となります。
すなわち「全責任」ではなく「プロセスの実行」を委任するという視点です。
リストラや評価制度の変更など、痛みを伴う改革を行う際は、その背景にある経営危機や将来のビジョンを、これ以上ないほど丁寧に人事担当者と共有してください。人事担当者が「会社を守るための大義」を腹の底から理解していなければ、現場からの反発に容易に心がポッキリと折れてしまうものです。
人事は業務の性質上、社内の他の従業員に悩みを相談できない「孤独なポジション」になりがちです。経営者自身が定期的な1on1で愚痴を聴く姿勢を持つことはもちろん、必要に応じて社会保険労務士や弁護士などの外部コンサルタントを「人事の相談相手(セカンドオピニオン)」として配置し、心理的な逃げ道を作っておくことも重要です。
論語に「これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」という一節があります。仕事の成果を高めるには、義務感だけでなく、人事担当者が前向きに取り組める環境が不可欠です。しかし、負の業務に押しつぶされた人事担当者に「仕事を動かせ」というのは酷というものでしょう。
人事担当者が疲弊し、暗い表情をしている企業に、優秀な人材が集まるはずもありません。
経営者の皆様、人事担当者に難題を命じる際は、どうか一呼吸置き、その背中にかかる重圧を想像してください。「いつもタフな交渉を任せてすまない。全責任は私が持つから、プロとして力を貸してほしい」という、その一言があるか否かで、人事担当者の心理的負荷は劇的に軽減され、ひいては企業の労務リスクを最小限に抑える強固な組織づくりへとつながるのです。
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