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No.310話:法令に基づく各種措置を、後ろ向きなコストと考えないこと。

「セクハラやパワハラの防止措置、育児休業制度の周知・・。最近の労働法は労働者ばかりに手厚く、中小企業には負担が大きすぎる」経営者の皆様から、このようなため息混じりの声をよく耳にします。確かに相次ぐ法改正への対応は煩雑であり、コストもかかります。しかし、これらを単なる「役所の形式的な手続き」や「守らなくても捕まらないルール」と軽視しているとしたら、会社を揺るがす極めて危険な考え方と言わざるを得ません。

現在の労務管理において、コンプライアンス(法令遵守)の欠如は、行政指導のリスクに留まりません。被害を受けた従業員から、数百万、時には数千万円規模の「損害賠償」を請求される直接的な経営リスクとなり得るのです。

政府が事業主にハラスメント防止措置や育児休業の意向確認などを義務付けるのは、単に「会社に規程を作らせるため」ではありません。企業に対し、従業員が安全に、安心して働ける環境を整えさせるという、具体的な「安全配慮義務」を課しているからです。

「ハラスメントを起こした当事者が悪いのだから、会社は関係ない」「育休は本人が申請してこないから取らせていないだけだ」というものは、多くの経営者が陥りがちな誤解です。実際には、「相談窓口の設置や研修(防止措置)を怠っていた期間にハラスメントが発生した場合」「育休の制度周知や取得意向の確認を適切に行わずに、結果として退職に追い込まれた場合」、こういったものは、すべて「会社が法的な義務を怠ったために、従業員に精神的・経済的苦痛を与えた」と判断されます。つまり、会社そのものが民法上の不法行為責任(使用者責任)や債務不履行責任を問われ、巨額の損害賠償を命じられる根拠になるのです。

ひとたび「ハラスメント対策を怠ったブラック企業」「育休を妨害するマタハラ企業」として裁判で損害賠償を命じられれば、その事実はまたたく間に社会へ拡散します。現代はSNSや口コミサイトの時代です。企業のブランドイメージは失墜し、既存の取引先からの信用は途絶え、求人を募集しても応募者は誰も来なくなるでしょう。現代の労務トラブルにおける「一罰」の代償はあまりにも重すぎるのです。「たった一人の従業員への配慮を怠った結果、会社が市場から退場させられる」これこそが、法律を軽視した経営者が支払うべき本質的な「代償」となります。

法令に基づく各種措置を整備することは、決して後ろ向きなコストではありません。万が一、社内でトラブルが発生した際に、「会社としては法に則り、最大限の防止措置と適切な事後対応を行っていた」という、会社自身を守るための強固な防護壁になります。

「備えあれば憂いなし」と言います。事態が深刻化し、裁判所から呼び出し状が届いてから慌てても手遅れです。今一度、自社の就業規則、相談窓口の機能、そして経営者ご自身の「意識」を総点検してください。従業員の権利を守ることは、巡り巡って貴社の大切な資産と未来を守ることに他ならないのです。

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