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No.312話:使用者の「安全配慮義務」とは。

「アットホームな職場です」「風通しの良い環境です」など、求人広告でよく見かけるフレーズですね。しかし、これらが形骸化し、逆に実態としては職場がハラスメントの温床となっているケースは少なくありません。

労働者が安心して働ける環境を整えることは、企業の倫理的責務であると同時に、法律上の強い義務でもあります。すなわち「安全配慮義務」といわれるものです。近年、この「安全配慮義務」を疎かにした結果としてハラスメントが発生し、企業が巨額の損害賠償を請求されるケースが急増しています。

さて、「安全配慮義務とは」ということなのですが、これは労働契約法第5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と明記されている、使用者(会社)の義務となります。また、ここでいう「安全」には、ケガや事故といった物理的な危険だけでなく、「心身の健康」、つまりメンタルヘルスの安全も当然のことながら含まれます。

かつては「労働安全」といえば、工場や建設現場での労働災害対策が中心でしたが、現代のビジネス環境においては、過重労働の防止や、職場の人間関係に伴う精神的ストレスへの配慮が強く求められるようになっているということでもあります。

従いまして、職場でパワーハラスメントやセクシャルハラスメントが発生している状態は、まさに使用者が「労働者の心身の安全を確保しつつ労働できる環境」を提供できていない状態、すなわち「安全配慮義務」違反(職場環境配慮義務違反)の状態であると言わざるを得ません。ハラスメントは、単なる「労働者個人の人間関係のトラブル」ではないのです。

「上司や先輩の過度な叱責を放置する」「被害者からの相談があったにもかかわらず、適切な調査や処分を行わない」「加害者を庇うような対応をする」といった、一連の「不作為(何もしないこと)」や不適切な対応こそが、使用者の「安全配慮義務」違反を構成するのです。

「安全配慮義務」は、労働契約に付随して当然に発生する義務です。そのため、使用者がこの義務を怠ってハラスメントを放置し、労働者が精神疾患(うつ病など)を発症したり、最悪のケースとして自死に追い込まれたりした場合、使用者は「債務不履行(民法第415条)」の責任を問われることになります。

「債務不履行責任」を問われた場合、使用者には次のような重大なリスクが課せられます。「1.巨額の損害賠償請求」治療費や休業損害だけでなく、将来得られるはずだった利益(逸失利益)や慰謝料など、場合によっては数千万円から数億円規模の賠償を命じられることになります。「2.企業の社会的信用の失墜」裁判沙汰になれば「ブラック企業」としての悪評が広まり、採用活動の停滞や顧客離れを招きかねません。加害者個人が不法行為責任(民法第709条)を負うのは当然ですが、使用者もまた、契約上の責任を免れることはできないのです。

では、使用者は具体的にどのような場面で、どう行動すべきなのでしょうか。

「予防(発生させない)の徹底」

明確なハラスメント防止方針の策定、全社的な研修の実施、心理的安全性(発言しやすい環境)の確保。

「早期発見(見逃さない)」

外部の専門家も交えた風通しの良い相談窓口の設置、定期的なストレスチェックや面談の実施。

「事後対応(放置しない)」

相談があった際は迅速かつ中立に事実関係を調査し、被害者のプライバシーを守りつつ、加害者への厳正な処分と被害者のメンタルケアを行う。

「安全配慮義務」を果たすことは、単なる法律違反の回避(リスクマネジメント)にとどまりません。ハラスメントのない、安全で尊重し合える職場環境は、労働者のモチベーションを高め、生産性の向上や優秀な人材の定着へとつながります。「知らなかった」「現場の人間関係のことまでは目を光らせられない」という言い訳は、もはや通用しない時代です。今一度、自社の職場環境を見つめ直し、実効性のある対策を講じることが、全ての経営者に求められています。

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