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No.314話:経営者を惑わす「定着率の罠」とは
2026.07.01
「定着率95%」「離職率ほぼゼロ」。経営者にとって、これらは自社が健全である証拠のように思える数字かもしれません。しかし、この数字だけに一喜一憂するのは非常に危険です。
なぜなら、その中身が「形骸化した定着率」といわれるものに陥っている可能性があるからです。
では、多くの経営者を惑わすこの「定着率の罠」とは、どのようなものなのでしょうか。
〇「誰も辞めない会社」に潜む2つのリスク
離職率が低いこと自体は悪くありません。しかし、
「定着させること」そのものが目的化すると、組織は確実に硬直化します。
そこには、次の2つの大きなリスクが潜んでいる恐れがあります。
1.ぶら下がり社員の増加と組織の硬直化
挑戦を好まず、現状維持を望む社員ばかりが定着し、新しい血が入れ替わらない組織は、市場の変化に対応できなくなります。
2.優秀な人材の「静かな退職」
流動性の低い組織ではポストが空かず、優秀な若手や中堅がキャリアの頭打ちを感じます。結果として、本当に残ってほしいエース級の人材から静かに会社を去っていくことになります。
数字の上の「定着率」を維持するために、変革の痛みを避け、新陳代謝を止めてしまうこと。これこそが、経営者が陥りがちな最大の罠になります。
〇目指すべきは「ゼロ離職」ではなく「最適な流動性」
現代の労務管理において、優秀な人材が一生一つの会社に留まるという前提は崩壊しています。これからの経営者が持つべき視点は、「いかに辞めさせないか」ではなく、
「健康的な流動性と、核心的な人材の定着のバランス」
です。
すなわち、企業が維持すべき「核心的な人材(コア人材)」とは、自社の理念を体現し、事業の根幹を支えるメンバーです。彼らに対しては、エンゲージメントを高める施策を徹底的に打つべきです。一方で、専門スキルを持つスペシャリストや、成長志向の強い若手に関しては、「数年間、自社で圧倒的な成果を出し、次のステップへ羽ばたいていく(=卒業する)」というサイクルを前提とした組織デザインが必要です。
〇「卒業」を前提とした現代的な労務管理
優秀な人材の「卒業」をポジティブに捉えるために、企業は次の2つの仕組みを構築する必要があります。
1.スキルとノウハウの「仕組み化」
特定の個人に業務が属人化していると、その人の退職が即リスクになります。誰が抜けても業務が回るよう、マニュアル化やシステムの導入を進め、まずもって「人材の流動」に耐えられる組織基盤を作ることです。
2.アルムナイ(退職者)ネットワークの活用
退職した従業員を「裏切り者」とする時代は終わりました。
退職者と良好な関係を維持する「アルムナイネットワーク」を構築すること
で、「外部でさらに成長した元従業員が戻ってくる『出戻り(カムバック)採用』の実現」、そして「元社員からの優秀な人材の紹介(リファラル)や、業務委託・パートナーとしての外部協業」といった、恩恵を受けることができます。
「定着率」は、組織の居心地やエンゲージメントを測る一つの指標(手段)に過ぎません。
目的はあくまで、「企業が持続的に成長し、成果を上げ続けること」です。
心地よい停滞を意味する「形骸化した定着率」に惑わされることなく、コア人材をがっちりホールドしながらも、優秀な人材が「卒業」していき、また新たな才能が流入する「流動的ながらも強い組織」を作ることに注力しましょう。
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