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No.319話:従業員の過失により生じた損害をどこまで請求できるか。

現場で従業員が重大なミスや不法行為を起こし、第三者に大きな損害を与えてしまったとき、会社は民法715条の「使用者責任」に基づき、従業員に連帯して損害賠償義務を負います。このとき多くの経営者が「会社が一旦賠償金を立て替えて払うが、原因を作った本人に全額請求(求償)すればいい」と考えがちですが、ここには大きな「落とし穴」が存在しています。

実はこれまでの裁判では、会社が従業員に対して行使できる「求償権」が著しく制限されています。最高裁の判断をはじめとする多くの裁判例では、損害の公平な分担という観点から、会社が従業員本人に請求できる割合は「損害額の1〜3割程度」に留まるケースがほとんどです。

なぜなら、会社は事業を通じて利益を得ている以上(報償責任の原則)、それに伴うリスクも引き受けるべきであり、すべての責任を従業員個人に転嫁することは認められないという考え方に基づいているからです。つまり、たとえ1,000万円の損害賠償が発生しても、従業員から回収できるのは100万〜300万円程度であり、残りの大半は会社が自己負担せざるを得ないのが現実となっています。

 

別の意味で深刻なことは、就業規則や社内規定が不備のまま放置されている状態です。就業規則や誓約書に「故意・重過失による損害発生時の賠償責任や求償手続き」が明記されていないと、本人への求償交渉自体が難航します。また、身元保証書を更新していない場合、保証人への求償もできません。

さらには、就業規則に明確な根拠となる懲戒規程において具体的な事由が定められていなければ、損害を与えた従業員に対して懲戒解雇や減給などの厳正な処分を行おうとしても、無効と判断される可能性が高まります。

就業規則の整備を怠ることは、事故が起きた際の「金銭的防衛策」と「人事処分の根拠」を同時に失うことを意味します。では、そうならないためにも、経営者が今すぐ講じるべき対策はいかなるものがあるのでしょうか。

 

〇就業規則と各種規程の最新化

業務上の事故や不正行為に対する求償の考え方、車両管理規程や情報セキュリティ規程を整備し、ルールの周知徹底を図ります。

 

〇企業向け賠償責任保険の活用

従業員のミスによる賠償金や長引く訴訟費用は、個人の資力や自社の手元資金だけではカバーできません。事業特有のリスクに合わせた保険への加入でリスクを外部に移転するに限ります。

 

〇過失を防ぐ「指導監督」の実体づくり

使用者責任の免責要件である「相当の注意を払っていたこと」を主張できるよう、日常的な安全教育や研修を実施し、その記録を残しておくことが最大の防衛策となります。

 

いずれにしても、「今までトラブルがなかったから」という過信はくれぐれも禁物です。そう、万が一の事態が起きてからでは遅いのです。この機会に是非とも、自社の就業規則とリスク管理体制をチェックし、必要に応じて条文の見直しや、規程の新設といった所要の整備に取り組むようにしましょう。

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