『人事労務戦略』構築専門のコンサルタント 株式会社サムライズ

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No.326話:AI・労務システム過信が招く、目に見えないリスクとは。

最新の勤怠管理システムや、それに連携した給与計算ソフトの進化には目を見張るものがあります。従来は多大な時間と労力を費やしていた集計作業やエラーチェックが自動化され、業務の大幅な省力化が実現できるようになりました。さらに近年ではAI機能が搭載され、複雑なシフト調整や労務リスクの検知など、まるで習熟した担当者が判断しているかのような高精度な処理まで可能になっています。

しかし、労務管理の現場を数多く見てきた専門家として、あえて強い危機感を込めて申し上げたいことがあります。どれほどシステムが高度化しようとも、「システムに頼り切り、任せきりにした労務管理は、必ず大きな返り討ち(しっぺ返し)に遭う」ということです。

 

〇数値の向こう側にいる「人間」が見えていますか?

人事労務管理において、私たちが相対しているのはプログラムやデータではなく、感情を持ち、日々状況が変化する「人間」そのものです。ここを失念してしまうと、組織は急速に冷え込み、離職や労働トラブルといった深刻な事態を引き起こします。

たとえば、ある従業員の出勤データを見たとします。遅刻こそ指定時刻内には収まっているものの、以前は始業30分前に出社していた人物が、最近は毎日ギリギリに滑り込んでくるようになったとしましょう。

労務管理システムやAIの判定上は「遅刻なし・問題なし」という正常な緑色のデータとして処理されます。システムは「何時何分に打刻されたか」という結果しか見ないからです。しかし、現場の人間がその変化に気づいたとき、全く異なる問いが生まれます。

「最近、いつも始業直前の到着だな。体調を崩しているのだろうか」

「家庭環境や介護で悩みを抱えているのではないか」

「業務過多でメンタルが限界に近いのかもしれない」

こうした微細な違和感や、ふとした瞬間に見せる表情のかげりは、画面上の数値を眺めているだけでは絶対に感知できません。人間の変化を感じ取り、声をかけ、手を差し伸べることができるのは、結局のところ人間だけなのです。

 

〇「システムは完璧」という過信が引き起こす弊害

「システムだから計算間違いがない」「AIだから客観的で正解に近い」という認識自体は間違いではありません。不必要な事務作業を減らし、法令遵守を強化する上で強力な武器であることは事実です。

しかし、それを過信して「管理完了」気取りになってしまうと、管理者と従業員のコミュニケーションは途絶えます。労働条件の不満や体調不良のサインをシステムが拾い上げてくれることはありません。サインが見過ごされ続けた結果、ある日突然のメンタル不調による休職や離職、あるいは蓄積された不満による労使トラブルとして表面化するのです。このコストと損失は、システム導入で削減した省力化効果をはるかに上回ります。

 

〇求められるのは「漸進的(ぜんしんてき)」な活用と真の人間力

労務管理のシステム化・AI化に対して真に必要な姿勢、それは「漸進的」な対応です。まずは単なる定型業務(打刻の自動集計、給与の自動計算、社内申請のペーパーレス化など)の効率化に留め、そこで浮いた「時間」と「心のゆとり」をどこに投資すべきかを考えてください。答は一つです。従業員との対話や、変化を感じ取るための労力に充てるのです。機械は「過去のデータ」を正確に処理することは得意ですが、人の「現在の状態」を思いやる情緒を持ち合わせていません。

 

システムを導入して安心するのではなく、むしろシステムによって得られた余白を使って、これまで以上に目の前の「人」を観察し、声をかけ、心の距離を縮めていく。労務管理のデジタル化とは、皮肉にもこれまで以上に「人間の温度感」が問われる時代の到来を意味しています。効率化の波に流されず、人間にしかできない役割を再認識することこそが、強い組織を作り上げる唯一の道なのではないでしょうか。

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