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No.328話:労働者は使用者よりも本当に強い?

経営者の皆様から、「今の時代、労働者は法律で手厚く守られていて、経営者ばかりが弱い立場にある」といった嘆きを耳にすることが少なくありません。確かに、相次ぐ法改正やコンプライアンス意識の高まりの中で、労務管理に頭を悩ませる経営者の苦労は計り知れません。

しかし、労務の現場を長年見つめてきた者としてあえて申し上げたいのは、「現実の現場において、真に強い立場にいるのは誰か」という本質です。

法律の理念としては「労働者と使用者は対等の立場」とされています。しかし、職場に入れば、労働者は使用者の指揮命令に従わなければなりません。経営者の指示に背けば、最終的には職を失い、日々の生活の糧を断たれ、路頭に迷うリスクを背負っているのは労働者の側です。組織の力を背景に指揮命令権を持つ使用者と、個人の生計をその職に依存している労働者とでは、根本的な立場の強弱が存在します。

労働基準法や労働安全衛生法をはじめとする労働法規に刑事罰まで設けられているのは、まさにこの「構造的に弱い立場にある労働者」を過酷な環境から保護するためです。法律による保護は、対等ではない現実に均衡をもたらすための必要最低限のルールに過ぎません。

ここで経営者の皆様に考えていただきたいのは、法律の遵守(コンプライアンス)を「義務だから仕方なく守るもの」と捉えるか、「事業を成長させるための基盤」と捉えるかという視点です。法律の条文を守るだけでは、従業員の心は動きません。真に求められるのは、労働者が強い指揮命令権の下にある「弱い立場」であることを十分に理解し、経営者が自主的に配慮を行うことです。

具体的には、心身の健康や安全を脅かさない労働環境を整えること、そして安心して個人の生活を継続できる適正な経済的還元を行うことです。自分の生計と安全が守られていると実感できて初めて、従業員は会社や経営者を信頼し、自発的に最高のパフォーマンスを発揮するようになります。

経営者が従業員の弱さに寄り添い、温かい配慮を自主的に注ぐ会社こそが、優秀な人材を引き寄せ、エンゲージメントを高めます。それは単なる労務管理を超えて、顧客や地域社会からも永続的に支持される「強い会社」を作る最良の経営戦略なのです。「強い立場」にある経営者がその力をどう使うか。その姿勢こそが、企業の未来を左右します。

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