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No.329話:「気遣い」を教えることも先輩・上司の役割です。

「年次有給休暇を取るのは労働者の当然の権利だ。なぜ休むのに上司の顔色をうかがい、同僚に『ありがとうございます』とお礼を言わなければならないのか」「もらい事故で怪我をした。自分に過失はないし、治るまで休むのは不可抗力だ。なぜ職場のメンバーに頭を下げたり、申し訳なさそうにしなければならないのか」現場の経営者や管理職の皆様から、こうした若手・中堅従業員の「主張」に困惑する声をいただくことがあります。

彼らの言っていることは、法律や理屈の上では確かに間違っていません。有給休暇は法で認められた権利ですし、不運な事故による不就労も本人の責に帰すべきものではありません。「権利の行使」や「不可抗力による不就労」に対して、後ろめたさを感じる必要は本来どこにもないのです。

 

〇「正しい主張」が職場に生む摩擦

しかし、どれほど理屈が通っていても、現実の職場は「人」の連携で動いています。一人が休めば、その穴を埋めるために周囲の同僚が業務を代替し、残業をしたり、自身の予定を変更したりすることになります。業務上の不便や負荷が発生することは避けられません。

それにもかかわらず、「休むのは当然の権利だから」「私は悪くないのだから」という態度を前面に出されてしまうと、現場に残された同僚たちの心には微妙なモヤモヤや徒労感が残ります。それが重なると、周囲の協力が得られなくなったり、孤立してしまったりと、結果的にその従業員自身が職場での居心地を悪くしてしまうのです。

権利や理屈を振りかざすことで、かえって本人が生きづらくなってしまうことは、本人にとってマイナスであることに違いはありません。

 

〇ちょっとした「一言」が関係性を潤滑に

ここで必要なのは、彼らに罪悪感や謝罪を強いることではありません。職場の人間関係を円滑にし、お互いを気持ちよく助け合うための「気遣い」の作法を教えることです。「お休みをいただき、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」「事故で突然不在にしてしまい、大変申し訳ありません。業務を引き受けてくださり助かります」

こうしたちょっとした感謝や「気遣い」の一言があるだけで、受け取る側の印象はガラリと変わります。「お互い様だから気にしないで」「しっかり治して帰ってきてね」と、周囲も気持ちよくサポートできるようになります。人間関係の摩擦を防ぐための「クッションの役割」を果たすのが、言葉の力であり「気遣い」です。

 

〇嫌われることを恐れず、教えるのが「上司の役割」

問題の本質は、このような気遣いの意味や重要性を、これまで上司や先輩が丁寧に教えてこなかったことにあります。指導する側も、「気遣いを促したら『権利侵害だ』と反論されるのではないか」「嫌な顔をされたくない」と腰が引けてしまいがちです。しかし、気遣いを知らないまま社会人を続け、周囲から敬遠されて損をするのは、他ならぬその従業員本人です。

経営者や管理職の皆様にお伝えしたいのは、「本人の成長と職場の調和のために、勇気を持って指導してほしい」ということです。「君の主張は法律的にも正しい。責めているわけではないよ」と一度受け止めたうえで、「でも、君が安心して休める裏で、仲間がフォローしてくれていることも事実だ。一言『ありがとう』『ご迷惑をおかけします』と伝えるだけで、君自身の人間関係や信頼がずっと良くなるんだよ」と、相手の利益になる視点から話してみてください。

 

権利を正しく使うことと、周囲に配慮することは矛盾しません。むしろ、「気遣い」ができる人だからこそ、権利を快く認められる存在になれるのです。従業員の将来のため、そして温かい職場文化を築くために、ぜひ「気遣いの大切さ」を根気強く伝えていきましょう。

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